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大阪地方裁判所 昭和23年(ワ)1647号 判決

原告 岩井源兵衛

被告 藤井又次郎 外二名

一、主  文

原告に対し被告藤井又次郎は大阪市南区八幡町三十五番地の一宅地百坪の内北部五十坪を同地上に存在する(一)木造柿葺平家建店舗一棟建坪十二坪二合五勺(二)木造柿葺二階建店舗一棟建坪三坪六合七勺二階坪三坪六合七勺(三)木造二戸建店舗一棟建坪十七坪五合七勺(但し北側一戸木造柿葺中二階付南側一戸木造瓦葺二階建)を收去して明渡し、昭和二十三年三月一日から右土地明渡済迄一箇月金七百五十円の割合による金員を支拂い、被告徳丸善弘は右(二)の建物より、被告山内英嗣は右(三)の建物から各退去してその敷地を明渡すべし。

訴訟費用は被告等の負担とする。

本判決は原告において被告藤井又次郎に対し金六万円、被告徳丸善弘に対し金一万円、被告山内英嗣に対し金二万円の担保を供するときはそれぞれ仮に執行することができる。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決と保証を條件とする仮執行の宣言を求め、その請求原因として請求の趣旨記載の宅地は原告の所有であつて、元來右地上には原告所有の建物が存在し原告は右建物内で家業である箪笥製造販賣業を盛大に営んでいたところ昭和二十年三月十三日夜の空襲に罹災し、建物を喪失したが、当時原告の使用人は離散し、息子も亦東北大学に勉学中で手助とならない爲営業の再建に甚だ不便が感ぜられたので暫く営業を中止し時機を待つこととして右土地を空地の儘としていた。ところが元同じく八幡町に居住し原告同様罹災した被告藤井又次郎が昭和二十一年初頃原告を訪れ右土地の賃借方申込んで來たが原告としては何れ近い將來これを自己の営業に使用せねばならず、他人に賃貸することは全く念頭になかつたので被告の申込を拒絶した。然るに被告藤井は断念することなく、その後三、四回も原告を訪れ賃借方を懇請して止まないので、原告もその熱意に動かされ、当時在学中の長男源一郎が昭和二十三年三月には東北大学を卒業する筈であり、これを待つて右地上に店舗を建設して家業を再開する予定であるからそれ迄の期間であれば一時右土地を賃貸するも差支なき旨答えたところ被告藤井は喜んでこれを承諾したので期間を固く昭和二十一年三月一日から昭和二十三年二月二十八日迄二箇年と限り又右土地に建築する建物は仮建築に限定し、賃料を一箇月金三百円、毎月二十八日迄にその翌月分先拂の約束で同被告に賃貸した。同被告はその後右地上に主文第一項記載の(一)乃至(三)の板葺仮設建物を建設し、賃料も双方協議の上途中から一箇月金七百五十円に増額したが、昭和二十二年八月二十五日賃貸期間も残り約六箇月となつたので原告は同被告に対し、契約期間満了の上は自ら使用する必要あるにより土地の返還を求める旨予告しておいた。そして被告山内は右(三)の建物を被告徳丸は(二)の建物をそれぞれ現に占有している。

然るに被告藤井は賃貸期間満了後も右土地の返還を爲さず、一方原告方では長男も大学を卒業し、又諸般の情勢上急速に店舗を建築し家業を再建する必要に迫られたので、被告藤井に対しては右建物收去の上土地の明渡と賃貸借期間満了の翌日である昭和二十三年三月一日以降右土地明渡済迄一箇月金七百五十円の割合による賃料相当の損害金の支拂を、被告山内に対しては(三)の建物から、被告徳丸に対しては(二)の建物から各退去してその敷地の明渡を各求めるため本訴に及んだと陳述し、

被告等の主張に対し被告等は罹災都市借地借家臨時処理法(以下処理法と略称する)及び戰時罹災土地物件令を引用して本件建物が仮設建築物であつて一時使用のための借地権ではないと主張するが前記二法令は本件とは全く関係がないのみならず本件建物が仮設建築物であることは被告の否認するところであるから被告の主張は理解し難い。

又原告が申立てた調停手続において被告藤井は終始本件賃貸借が期間の定めのないものであることを主張したのみであつて処理法に基く賃借申出をしたことはない。

本件賃貸借契約の成立した昭和二十一年三月頃における大阪市内の情勢は被告主張の如きものではなく、未だ將來の見透しが付かぬため何人も恒久的計画を樹て難く而も急激なインフレーシヨンのため座食することも許されず取敢へず一時的設備によつて多少共收入を得てその日を過さんが爲、一年又は二年の期間の借地を申込んだのが眞相である。他方土地所有者も將來の見透が付かぬため借地法による賃貸をする意思なく極めて短期の一時的設備のため土地の使用を認めていたものである。若し被告主張の如く一時使用のための借地権でないとすると三十年間の借地権となるが、眞にかゝる長期に亘つて建物を所有することを目的とする契約であるならば何故僅か数年にして朽廃、從つて借地権の消滅すべき建物を建築するのであらうか。本件建物自体の構造が契約の内容を雄弁に物語るものと謂はなければならないと陳述した。<立証省略>

被告等訴訟代理人は、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として被告藤井が原告からその主張の土地を賃料一箇月金三百円(途中から一箇月金七百五十円に増額)で賃借したこと、同被告が右地上に原告主張の(一)乃至(三)の板葺建物を建築所有していること、原告主張の(三)の建物が建設当時板葺平家建であつたこと、被告山内及び徳丸が原告主張の建物をそれぞれ使用占有していることは爭はない。

然し原告と被告藤井間の賃貸借の存続期間が二箇年であること本件地上に建設する建物が仮建築に限る旨の特約の存在すること、本件建物が仮設建築物であることは何れもこれを否認する。右二箇年の期間は賃料更改の爲に一應定められたものに過ぎず、仮に然らずして賃貸借の期間であるとするも借地法の規定に違反し無効である。

仮に本件建物が仮設建築物であるとしてもそのことから直ちに本件賃貸借が借地法第九條に所謂一時使用のための賃貸借であるという結論は生じない。即ち処理法第二條の規定に徴しても同條但書中の「土地を権原により現に建物所有の目的で使用する者があるとき」とは戰時罹災土地物件令第四條第一項又は第四項等により罹災土地に仮設建築物を築造している者がある場合で、処理法第二條第一項はかゝる権原により仮設建築物を築造している者がある場合には罹災建物滅失当時の建物の借主は土地所有者に対し土地の賃借の申出をすることができないのに反し、第二條第四項は臨時設備その他一時使用のために設定されたことの明かな借地権があつても右建物の借主はかゝる一時使用のための借地権に拘泥せずに土地賃借の申出をすることができると規定している。これによつてみても仮設建築物のための借地権は一時使用のための借地権とは別個の概念であり且つ前者は法律的に後者より厚い保護を與えられていることが明かである。

そもそも或る借地契約が一時使用のためのものであるか否かは單に契約書に記載された文面だけでなくその契約の成立した際の社会的環境も考慮して判断されなければならない。本件賃貸借契約成立の日時は昭和二十一年三月一日であつて終戰後既に約六箇月を経過した時である。終戰前の空襲の未だ激しい時期であつて借地人がその日の住居にも困つてとにかく雨露を凌ぐために借地を求めて契約を締結するが如き社会的環境とは全く異る。

被告藤井は賃借当時他に住居を有していたが、八幡筋が將來唐木商の商店街として復興することを信じ本件地上で永く家業を営むことを目的としてこれを賃借したのである。斯の如き環境及び事情の下に締結された本件賃貸借は決して一時使用の爲のものではない。

更に又本件契約は臨時設備その他一時使用の爲借地権を設定したことが「明なる場合」でなく、尠とも「明かでない場合」である。即ち本件賃貸借について作成された契約書には仮設建築物に限る旨の條項は全然記載されておらず一方被告藤井は地上家屋の一戸を自ら使用し他の二戸は相被告等に賃貸しているのみならず、本件家屋について所有権保存登記手続迄している。しかも鑑定の結果によれば本件家屋は小修繕をすれば約十年程度使用可能とされている。一時使用のためにする借地上に尠とも十年使用可能の家屋を建築することは常識上あり得ない。

仮に以上の主張が理由がないとしても処理法第三十二條第一項第二十九條第三項類推適用の結果被告藤井は同法第二條によつて原告に対して本件土地賃借の申出をすることができるのであるが、原告は昭和二十三年十月二十日本訴提起前被告藤井に対して土地明渡の借地調停を申立て、約十回調停期日が開かれたが、右調停手続中被告は終始原告に対して本件土地を引続き賃貸せられたい旨申出でた。即ち被告藤井は昭和二十三年九月十四日迄に原告に対し処理法第二條による賃借の申出をしたから被告藤井は本件土地について賃借権を取得した。

更に仮に原告に右申出を拒む正当理由があるとしても被告藤井は本訴において処理法第三十二條第二項によつて本件建物を相当な対價で買取るべきことを請求し、買取代金の支拂ある迄本件土地の引渡を拒むものであると陳述した。<立証省略>

三、理  由

被告藤井が昭和二十一年三月一日原告からその所有に係る本件土地を一箇月の賃料金三百円(その後一箇月金七百五十円に増額)で賃借したこと、同被告が右地上に原告主張の(一)乃至(三)の建物を建設所有していること、(三)の建物が建築当時板葺平家建であつたこと、被告山内、徳丸がそれぞれ原告主張の建物を占有し、延いてその敷地である本件土地を占有していることは何れも当事者間に爭がない。

よつて以下本件における主要の爭点である原告主張の賃貸借が借地法第九條に所謂「臨時設備その他一時使用の爲設定したこと明なる場合」に該当するか否かについて判断する。

証人岩井コトの証言原告本人の供述、鑑定人伊藤弘の鑑定及び檢証の各結果を綜合すれば(一)本件土地は原告が永らく家業である箪笥製造販賣業を営んでいた土地であること(二)本件賃貸借は被告の懇請によつて締結されたものであること(三)本件土地は御堂筋と八幡筋との角に当り諸種の営業上相当の價値のある土地であるにも拘らず本件土地の賃貸借については公正証書の作成もなく、一方右土地に隣接する原告所有の土地の第三者に対する賃貸借については公正証書の作成されていること(四)原告は昭和二十三年三月以後被告藤井に対して土地明渡の調停申立を爲し約十回期日を重ねたが調停成立の見込がなかつた爲昭和二十三年九月十四日調停申立を取下げ同年十月二十日本訴を提起したこと(五)本件地上建物が何等の修繕を施さなければ竣工後約三、四年の壽命を有するに過ぎざるものなることを認め得べく、以上の事実に証人岩井コトの証言原告本人の供述を綜合すれば原告は昭和二十一年初頃当時長男が東北大学在学中で二年後卒業の予定であつたので、長男卒業の上その手傳の下に家業の箪笥製造販賣業を本件地上で再開すべく計画中であつたが被告藤井の懇請によつて長男の大学卒業迄を限り一時本件土地を被告藤井に賃貸することを承諾し、賃貸借存続期間を二年、右地上に建設すべき建物を仮設建築物と限定して被告藤井と賃貸借契約を爲したことが認められ、右認定に反する証人藤井コトエの証言及び被告本人藤井又次郎の供述は採用しない。

被告は仮に本件地上建物が仮設建築物であるとしてもこのことから直ちに本件賃貸借が一時使用のためのものであるという結論は生ぜず処理法第二條に徴しても仮設建築物所有のための借地権は一時使用のための借地権に比し厚い保護が與えられている旨主張するが本件賃貸借は本件地上建物が仮設建築物であるとの一事によつて一時使用のためのものであるというのではなく、前記認定の如くその他の諸事情を綜合して一時使用のためのものと認められるのであるから被告のこの主張は当らない。

又被告は借地契約が一時使用のためのものであるか否かは借地契約成立の際の社会的環境をも考慮して判断すべく、本件賃貸借は昭和二十一年三月一日終戰後約六箇月経過した際に締結されたものであり、終戰前の空襲の未だ激しい時期であつて、借地人がその日の住居にも困つてとにかく雨露を凌ぐために借地を求めて契約を締結するが如き社会的環境と全く異る、被告藤井は本件土地賃借当時他に住居を有していたが、八幡筋が將來唐木商の商店街として復興することを信じ本件地上で永く家業を営むことを目的としてこれを賃借したのであると主張するが、本件土地賃借当時の社会的環境が仮に被告主張の如きものであるとしても、このことから直ちに本件賃貸借が一時使用のためのものでないという結論は生ぜず、且檢証の結果並びに弁論の全趣旨を綜合すれば、被告藤井は本件地上に原告主張の(一)乃至(三)の建物建築後直ちに(二)の建物を被告徳丸に、(三)の建物を被告山内に賃貸し、又(一)の建物を現に訴外大阪唐木業協同組合に使用せしめ、自らこれを使用していないことを認められるから、被告藤井が永く本件地上で家業を営むことを目的として本件賃貸借を爲したという証人藤井コトエの証言及び被告藤井又次郎本人尋問の結果も直ちに採用できない。

更に又被告は本件賃貸借は一時使用のため借地権を設定したことが「明なる場合」に該当せず尠とも「明ならざる場合」であると主張するが、前記認定の事実に徴すれば本件賃貸借は一時使用のため借地権を設定したことが「明なる場合」と謂うを妨げず、本件賃貸借について作成された契約書には本件地上に建設すべき建物は仮設建築物に限る旨の記載がないが、一時使用のための借地契約であることが「明なる場合」や否やは契約書の文言のみから決すべきことではなく、又成立に爭のない甲第二号証によれば被告藤井は本件建物について所有権保存登記手続をしていることが認められるが、同時にまた右甲号証によれば被告藤井が右登記手続を爲したのは昭和二十三年二月七日であつて本件賃貸借の期間満了の日から僅かに二十数日前であることが認められるから、右登記手続の事実をもつて本件賃貸借が一時使用のためのものであることが「明なる場合」に該当しない証拠となすことはできない。

被告は本件賃貸借について定められた二年の期間は賃料改訂の期間であり、仮に然ずとするも借地法の規定に違反し無効であると主張するが、右二年の期間が賃貸借存続期間であることは前認定の通りであり、又本件賃貸借が借地法第九條に所謂一時使用のため設定したること明なる場合に該当することも亦前記の通りであるから、本件賃貸借には同法第二條の適用なく存続期間二年という契約條件が有効であること勿論である。

更に被告は処理法第三十二條第一項第二十九條第三項類推適用の結果被告藤井は同法第二條に基き本件土地賃借の申出をすることができるのであるが同被告は昭和二十三年九月十四日迄に原告に対し本件土地賃借の申出をしたと主張するが、同法第三十二條第一項によつて土地の賃借申出を爲し得る者は空襲その他戰爭に起因する災害に因つて滅失した建物に滅失当時居住した者に限られること同法第二十九條第三項、旧戰時罹災土地物件令第四條等によつて明かであつて、右規定はその以外の者に類推適用すべきものではないと解するから、被告藤井は前記規定に基き原告に対し本件土地の賃借申出を爲し得ないものと謂はなければならない。

次ぎに被告は本訴において処理法第三十二條第二項により本件建物を時價で買取るべきことを請求し、買取代金の支拂ある迄本件土地を留置すると主張するが、同法第三十二條第二項は同條第一項と同様、罹災建物の滅失当時これに居住した者以外の者に類推適用のないこと前記の通りであるから、被告藤井は同法第三十二條第二項による買取請求権をも行使することを得ないものと解すべく、又本件賃貸借は一時使用のため設定せられたこと明なる場合であるから借地法第四條によるも買取請求を爲すことを得ず、被告の主張も亦採用することができない。

然らば原告と被告藤井との間の本件土地賃貸借は昭和二十一年三月一日から二年を経過した昭和二十三年二月末日をもつて期間満了によつて終了し、同被告は原告に対し本件土地を返還すべき義務があり、又原告及び被告藤井間の賃貸借が終了した以上被告山内及び被告徳丸は本件土地を占有すべき何等の権原を有せざるに至つたものであるから、原告に対し被告藤井は本件建物を收去の上その敷地である本件土地を明渡し、昭和二十三年三月一日以降右土地明渡迄一箇月金七百五十円の割合による賃料相当の損害金を支拂う義務があり、被告山内は(三)の建物から被告徳丸は(二)の建物から各退去してその敷地を明渡す義務があるから、これを訴求する原告の本訴請求は正当である。

よつて原告の本訴請求を認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九條仮執行の宣言について同法第百九十六條を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 岩口守夫)

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